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金融機関は業績悪化の会社に対して融資をしたがらない傾向にあります。貸し付けたお金を返済してもらえないリスクが高いからです。
そこで、日本政策金融公庫では業績悪化の会社に対する融資制度を設けています。それがセーフティーネット貸付です。実際に融資を引き出しためには「中長期的に業績回復する」という条件をクリアが求められます。
そこで、セーフティーネット貸付のアウトライン、業績回復ができることを説得するための事業計画書の作成方法、金融機関が考える借入金返済の財源を中心に解説します。最後に担保についても触れます。
セーフティーネット貸付(経営環境変化対応資金)を紹介
日本政策金融公庫は業績悪化の会社に対して、経営環境変化対応資金というセーフティーネット貸付を行っています。それでは、詳しい内容を見ていきましょう。なお、便宜上セーフティーネット貸付の用語で統一します。
業績回復が融資を引き出す条件
セーフティーネット貸付の融資対象となるのは次の2つに当てはまる会社です。
(2)中長期的に業績回復をし、発展することが見込まれる会社
つまり、業績回復の見込めることが求められているのです。
業績悪化の8つの具体例
日本政策金融公庫では、業績悪化の具体例を示し、融資対象会社の条件としています。
(1)最近の決算期における売上高が前期または前々期と比べて、5%以上減少している会社
(2)最近3カ月(2018年5月~7月)の売上高が前年同期(2017年5月~7月)または前々年同期(2016年5月~7月)に比べて減少し、かつ、今後も売上減少が見込まれる会社(記事執筆時:2018/8/31)
(3)最近の決算期における「損益計算書の当期純利益」または「売上高経常利益率(売上高に占める経常利益の割合)」が前期または前々期に比べて悪化している会社
※経常利益とは会社が本業から獲得できる利益のことを指します。したがって、臨時収入と臨時損失を含めません。
(4)最近の取引条件が「回収条件の長期化(例 回収サイトが締め後30日→45日)」または「支払条件の短縮化(例 支払サイトが締め後45日→30日)」などにより資金繰りが悪化している会社
(5)社会的な要因による一時的な業績悪化により「資金繰りに著しい支障をきたしている会社」または「支障をきたすおそれのある会社」
(6)赤字幅が縮小したが、最近の決算期でも赤字の会社
赤字とは、次の損益計算書のいずれか項目で損失ことを指します。
- 税引前当期純損益(法人税など差し引く直前の損益)
- 経常損益
(7)最近の決算期で創業以来の累積損失がある会社
(8)次の2つの条件を満たしている会社
- 前期の決算期で税引前当期純損益または経常損益で損失を生じていること
- 最近の決算期で利益を獲得しているが、債務償還年数(借入金÷後述する返済原資)が15年以上であること
※債務償還年数とは、借入金を何年で完済できるのかという指標であり、「借入金÷後述する返済原資(≒利益)」で計算します。
(1)~(8)のいずれかに当てはまる会社はセーフティーネット貸付を検討してはいかがでしょうか。
事業計画書で業績回復ができることをアピールする
前述の通り、中長期で業績回復をすることがセーフティーネット貸付により融資を引き出す条件です。そのことをアピールするツールが事業計画書です。業績悪化の会社が事業計画書を作成するポイントについて説明します。
業績悪化の原因分析をする
業績悪化の原因は外的要因と内的要因に大別でき、業績回復をするための行動指針となります。
外的要因
消費者や取引先など動向により業績悪化を招きます。
- 販売数量や受注量の減少に基づく売上高の減少
- 商品や原材料などの高騰による原価率の増加(高騰分を自社が負担している)
- 顧客ニーズの変化など外的要因により、不良在庫を抱えることによる資金繰りの悪化
- 貸し倒れ(代金の回収不能)などによる臨時損失の発生
- 得意先の取引条件の変更に伴う回収サイトの長期化
- 支払先の取引条件の変更に伴う支払サイトの短縮化
内的要因
業績悪化の影響は会社内部の視点から検証する必要があります。
- 商品力、販売力、営業力の低下による売上高の減少
- 生産性、稼働率などの低下による原価率の増加
- 過剰人員による人件費の負担増、利益の圧迫
- 家賃など必要以上の経費の支出
- 商品の過剰仕入れなど内的要因により、過剰在庫を抱えることによる資金繰りの悪化
- 多額の設備投資に対し、いまだに回収できていない
原因分析に基づき改善案を提示する
原因分析の次に改善案を事業計画書に盛り込むことで、はじめて業績回復を日本政策金融公庫にアピールすることができます。改善案はおもに3つに分類できます。
(1)利益を獲得につなげる方法
たとえば、売上高を増加するために営業担当者を増員し営業力を強化するなどが挙げられます。また別の例として、原価率を下げるために外注費の削減や生産工程の見直しなどの改善案を明確にすることの方法があります。
もちろん、経費削減の方法を検討するのは必須です。ただ、家賃など売上高と直結しない経費削減を優先させ、なるべく販売と直結する広告宣伝費や研修費などの投資の削減は後回しにしましょう。
(2)不良、過剰在庫の処分
在庫を処分価格で販売したり、破棄したりすることを意味します。これらの臨時損失額は現在あるいは将来の節税につながります。また、倉庫代などの管理コストの削減に貢献するかもしれません。
(3)多額の設備投資について検討する
まず、設備投資の理由を事業計画書に記載することからスタートします。その理由に基づき、「設備投資の金額を回収する方法」または「設備投資額の見直し、リースや割賦払いへの切り替えなど資金繰りの改善案」を日本政策金融公庫に提示しましょう。
資金調達の目的を明確にする
セーフティーネット貸付は業績回復が条件である以上、単に「資金繰りが苦しいから融資をして欲しい」では、日本政策金融公庫に対して説得力がありません。たとえば、原材料の仕入れに充てるための資金調達であることを明確にし、中長期に業績回復ができることを事業計画書で示す必要があります。
事業計画書は実現性のあることが鉄則
事業計画書では、将来の売上高、原価、経費、利益を記載しますが、それぞれの金額について実現性のあることが鉄則です。実現性について詳しく見ていきましょう。
(1)売上高
「売上高が前期比20%増加など」を単に事業計画書に記載するだけでは説得力がありません。その根拠の説明が求められます。たとえば、「いま取り扱っているサービスは潜在的な需要がある」や「インターネットでの集客に力を入れる」など具体案を示すことが必要です。
(2)原価
たとえば、「仕入ルートを国内から安価な海外にシフトする」や「外注費の一部を別の外注先に発注し、コスト削減を図る」などの原価率を下げる具体案を示す必要があります。
(3)経費
たとえば、「事務所の場所を駅前から路地裏にして家賃を下げる」などの具体案を示す必要があります。ただ、経費削減のポイントは削減率でなく、削減額が大切です。年間10万円の事務用品費を50%減の5万円を削減するより、年間300万円の家賃を5%減の15万円削減したほうが利益は多く確保できます。
(1)~(3)の項目に実現性が求められるのは、利益が確保できることを日本政策金融公庫に示すためです。この利益こそ、借入金返済の財源であり、専門用語で「返済原資」といいます。
日本政策金融公庫が求める借入金の返済原資について解説
事業計画書を作成する際、借入金元本の返済額より返済原資が上回るようにすることが必要です。そこで、借入金の返済原資について解説します。
キャッシュフロー(現金収支)が返済原資である
そもそも借入金は現金預金で返済します。そのため、返済原資はあくもでもキャッシュフローとなります。
たとえば、今期中に商品を納品すれば、売価から原価を差し引いた粗利益と同額の利益は増加します。しかし、仕入代金の支払いは今期、売上代金の入金は翌期の場合、この商品の売買に関し今期のキャッシュフローはマイナスとなり、借入金返済の確保ができなくなってしまいます。
返済原資は基本的に「利益+減価償却費」で計算する
損益計算書に相当する利益計画の売上高、原価、経費は基本的に現金収支の裏付けに基づき計上します。そのため、本来なら利益と返済原資は一致するはずです。
しかし、特に経費については、支出の伴わない項目が含まれています。それが減価償却費です。結論から言えば、経費の項目を支出の伴う項目と減価償却費を区分することが返済原資を意識した利益計画の作成ポイントとなります。
減価償却費とは、自動車や備品などの固定資産を税法上の使用可能年数(耐用年数)で複数年にわたって経費で落とす手法を指します。
たとえば、耐用年数5年のサーバーを100万円で購入したとします。経費で落とせる金額は5年間にわたって、年間平均「購入金額100万円÷耐用年数5年=20万円」となります。
そのため、購入年度の翌年度以降は支出の伴わない経費20万円を計上することになり、キャッシュフローがマイナスになることはありません。
つまり、返済原資に計算では利益にキャッシュフローに影響しない減価償却費をプラスします。
入金されるタイミングの遅い業種は資金繰り表の作成が必要
たとえば、クリニックや介護業界は売上代金の入金されるタイミングが遅く、経費を先に支払うのが一般的であり、利益とキャッシュフローが一致しない傾向にあります。そのため、「利益+減価償却費」を返済原資として計算するのでは日本政策金融公庫に対し説得力に欠けます。
そこで、実際の現金収支をシミュレーションした資金繰り表の作成が求められます。たとえば、事業活動による入金額3,000万円、支出額2,600万円の場合、差額の「3,000万円-2,600万円=400万円」が返済原資となります。
融資の引き出しをより有利にする担保について解説
そもそもセーフティーネット貸付は業績悪化の会社に対する融資です。担保については「担保設定の有無、担保の種類などについては、ご相談のうえ決めさせていただきます。」と記載されています。そこで、担保について解説します。
担保の種類と担保評価額の目安を紹介
金融庁には金融機関向けに対する指針を示す金融検査マニュアルがあり、担保について記載されています。担保の種類は「優良担保」と「一般担保」に大別できます。それぞれの担保について詳しく見ていきましょう。
参考URL:金融庁
(1)優良担保
おもに預金、国債等の信用度の高い有価証券などが挙げられます。特に有価証券の評価額は時価(現時点で売価)であり、有価証券の担保評価額は次のように割り引くことが例示されています。
- 国債:評価額の 95%
- 政府保証債:評価額の 90%
- 上場株式:評価額の 70%
- その他の債券:評価額の 85%
(2)一般担保
優良担保を除いた、売却可能な資産のことを指します。おもに不動産、機械、商品などの在庫、売掛金が挙げられます。評価額は時価であり、担保評価額は次のように割り引くことが例示されています。
- 土地、建物、機械、在庫:評価額の 70%
- 売掛金:評価額の 80%
すでに抵当に入れている不動産でも担保にできる
たとえば、住宅ローンで購入した個人の不動産はセーフティーネット貸付で融資を受ける際、すでに抵当に入れていても担保として認められます。融資を申し込むときには、借入金申込書に不動産の登記簿謄本などの添付が必要です。
参考URL:日本政策金融公庫
まとめ
業績悪化の会社がセーフティーネット貸付で融資を引き出すためには日本政策金融公庫に対し「中長期的に業績回復をできる」を説得することがポイントとなってきます。
そのツールが事業計画書であり、業績回復の実現性のある内容が求められます。そのためには、返済原資が借入金元本の返済額を上回ることが最低条件です。
このようにセーフティーネット貸付は業績回復が条件である以上、綿密な事業計画書の作成が必須です。
「事業計画書をどう作成したらいいのか分からない。」「自分で作った事業計画書がいいか不安。」という方は、ぜひ当事務所へご相談ください。
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